歌仙の栄光と没落

『新三渓園だより』　8月14日

7月半ばというのに、連日、猛暑が続いています。早くもバテバテです。

そういえば、14日から早朝観蓮会が始まった（土・日・休日、早朝6時に開園）というので、涼を求め、少し早起きをして、三溪園に出かけました。といっても、着いたのは8時を過ぎていましたが…。もう多くの人々が蓮池の周りに集まっていました。

ところで、三溪園の今年の蓮の花、他に較べてちょっと遅いような気がします。花の数と見学者の数、どっちが多いかな、と思うほどです。

ということで、花の見学は来週にまわして、茶屋で一休みということにしました。

園内の三カ所の茶屋では、観蓮会に併せて、朝食を用意しています。(数量限定）

奥の茶屋・待春軒では「麦とろ御飯」が用意されています。

　(麦とろ御飯）

　　(宇治金時）

池のほとりの三溪園茶寮では「朝がゆセット」、隣の雁ケ音茶屋では「中華風がゆ」です。

私は、朝御飯、食べてきてしまいましたから、「宇治金時」のかき氷で涼むことにしました。

さて、食べ物紹介ついでに今回は和菓子のはなしです。

「茶の湯と和菓子」のこと

いつもの習性で、近くの本屋をブラブラしていて、面白い本をみつけました。

『和菓子を愛した人たち』　(虎屋文庫編：山川出版：1,800円）という単行本です。どういうわけか、歴史書の棚のなかにありました。

あの羊羹の虎屋が！と興味を惹かれ、立ち読みしました。（買わずにすみません！）

その中身をみると、古くは紫式部・清少納言から始まって、頼朝とか家康といった武人も交え、最後は漱石など近代の文化人まで、それぞれが愛した和菓子について解説しています。

「和菓子」といえば、当然「茶の湯」と繋がります。当然ながら千利休の名も、小堀遠州の名も載っています。

そして、近代三大茶人、鈍翁、耳庵とともに、三溪の名も、一項目として載っているのです。

三溪の項では、有名な「蓮華飯」、「浄土飯」の茶事について取り上げています。この茶事、長男・善一郎の追悼茶会になるわけですが、このことは、以前にも紹介しています。(第１８話、」2016，8，14付）

でも、そのさい出された菓子については、全く触れていません。というより、こうした話の中では、道具類は話題になっても、菓子まで触れることは普通ありませんよね。

ここは、虎屋です。ちゃんと調べてあります。この席の会記(茶会等で使用される道具や花・香そして料理などを一覧に記したもの）には、出された菓子がちゃんと書き込まれていました。

ついでに他の料理も並べて紹介しましょう。

　　懐石

膳　　　　大徳寺膳

向付　　大徳寺納豆

　　　　　蓮華飯　飯器　ペルシャ萌黄地唐草模様鉢

香物　　黄瀬戸タンパン出栗鉢　アチャラ漬

菓子　　さつまいも茶巾しぼり蜂蜜

この菓子について、本書では、

『さつまいもは、旬の時期には早く、まだ甘みが少ないことから、蜂蜜を入れたのだろう』と推測しています。お菓子屋らしい、細かな観察です。

ついでながら、鈍翁と耳庵の場合です。

鈍翁の大正８年の茶席のはなしです。

この年、鈍翁は、秋田の殿様・佐竹家の秘宝「三十六歌仙絵巻」のうちの一枚「斎宮女御」を手に入れました。（この経緯についてあは、以前：岱7話：2017，9，24の項で詳しく述べています。）その披露を兼ねて茶会を催したのですが、そのとき出された菓子は「黒川製檜扇型菓子」とあります。「黒川」とは虎屋の主人の名前です。「檜扇」とは、平安の昔、宮中の女性の持つ扇で、ヒノキの薄い板を綴じ合わせて作られています。絵巻の主人公・斎宮女御の、衣に隠れて見えない檜扇をイメージしたのかも、とこの本では推測しています。明治の初め、天皇が東京に移られたとき、一緒に京都から東京に店を移したという虎屋ですから、故事に由来する菓子を作ることはお手のものだったのでしょう。

 （虎屋の資料では、檜扇型とは、こんな形をした羊羹だったのでは、としています。）

これに対し、耳庵の菓子は、はっきりした記録が少ないようなのですが、どうも自家製の簡単なもの、饅頭とか葛餅のような単純なものが多かったようです。

このように、鈍翁・耳庵の性格が菓子にもはっきり出てきます。

茶会では、その道具にこだわったという鈍翁は、菓子も「黒川製」というブランドものです。

それに対し、新聞紙の上にアルミのヤカンを載せて茶を楽しんだという耳庵の菓子は、手作りの饅頭というわけです。

そういえば、われわれが茶会のことで話題にするのは、床の間の掛軸は？　茶碗は？　茶入は？　と、あまり菓子のことは気にしないことが多いようです。三溪の茶会記をみても、菓子まで書き残しているのはあまり多くないようです。折角ですので、このさい菓子に焦点を当てて、残されている記録からその部分を抜き出してみましょう。

大正5年の三溪・初陣の茶会では「菓子・そば饅頭むして　越後屋製」とあります。場所は「蓮華院」です。

大正7年、鈍翁を招いた茶会では「菓子・栗まんぢゅう」、さらに日を改めて「菓子・草もちあんかけて」とあります。

その後、「豆羊かん」、「麦粉をかんてんにて」、「甘干柿」、「ぜんさひ」などと続きます。

晩年には、蓮華飯のあとは、記録が少なくなるのですが、「そばぜんざい」、「しる粉」、「きび饅頭」などが記録されています。

三溪最後の茶会は、昭和14年4月14日で、親しい友人たちを招いて、好物である南京料理を振舞って、臨春閣の広間を使って茶事を行ったと記録されていますが、残念な�
��ら菓子の名前は残されていません。

この最後の茶事に招かれた客とは、松永耳庵、田中親美、小林古径、安田靫彦、前田青邨、などです。

三溪は、これを最後に茶事を催すことがなく、同年８月16日、真っ盛りの蓮の花に見守れながら、71年の生涯を閉じます。

もうすぐ、79回目の命日ですね。

　　　（齋藤清著「原三溪」を参照にしました）

さん(@ema.sato)がシェアした投稿 – 2018年Jul月12日am1時12分PDT