リアリティ 人は着た目が9割

  スフィーダの試合の日、スタジアムでお会いすれば必ずご挨拶をさせて頂くご夫婦が居る。きっと私の両親と……そう年も変わらないと思う、いや、もしかしたらいくらか上かもしれない。お二人とも小柄で上品なおしどり夫婦といったカンジで、お会いすると気さくに話し掛けて下さるのだ。きっとホームゲームもほぼ毎回いらっしゃってるのだろうが、きっと我々とは随分離れたところ……ピッチ全体がよく見える真ん中の上の辺りで静かに観戦されているのか、「偶然」に助けられない限りなかなかお会いすることは叶わない。だからこそ遠方のアウェイでは、サポーターの数が少ないせいかすぐに見つけることが出来るのだけど。

  そのご夫婦と初めてちゃんとお話したのは2015年の10月のハリマ戦遠征だったと思う。帰りの関空でたまたまお会いして「うちのオトンやオカン世代の方でも、こんな遠くまでスフィーダを応援にいらっしゃる方が居るんだ！」と驚いたのを覚えている。

  翌年2016年のアウェイ愛媛戦では、道後温泉の、とあるお店で旦那さんの方にお会いした。この日は奥様は東京でお留守番だったのか、旦那さんと……川嶋珠生コーチのご両親と三人でお食事をしていたところだったようで、お三方のご厚意で少しだけその席にご一緒させて頂くことになった。お話を聞くと、どうやら……旦那さんの方はスフィーダ世田谷ＦＣが生まれる前から、一期生である川嶋珠生、田中麻里菜、高橋奈々(現・パルセイロレディース)が「アマゾネス明正」というチームでサッカーをしていた頃から、子どもたちのサッカーの審判をされていたらしい。川嶋ご夫妻とはもう長年のお付き合いなのだろうことが、その食事の席からもよくうかがえた。

  一つのサッカーチームを応援する理由というのは人それぞれであり……「地元だから」「家族だから」「知ってる子が所属しているから」「元々応援していた選手がそこに移籍したから」等と様々だけれども……この話を聞いて「ああ、川邊監督がスフィーダの生みの親ならば、このいつもスタジアムに見えてるご夫婦はスフィーダの歴史を、スフィーダが生まれる前からずっと見守って来て下さった沢山の育ての親のうちのお二人なんだな」と酷く感動した。きっとどこのチームにも少なからずそういう存在の方はいらっしゃるのだろうけど、直接お話させて頂いて昔のお話を伺うと、よりリアリティが増して……じわじわ感じるものがある。

 日曜日の味西での伊賀戦で……久しぶりにそのご夫婦にお会いした。いつも一言二言ご挨拶をするくらいのだけれど、この日は奥様の方が沢山話し掛けて下さって、鞄の中を覗かせてあるものを見せて下さった。それは……ボロボロになった青い紙製のもので、よく見るとスフィーダのホーム開幕戦の日にクラブが配布した応援用のハリセンだった。

「この前の雨が酷かった試合があったでしょう？ 雨の中ずっと手拍子して叩いてたからボロボロになっちゃったの」

  そう言って見せて下さったハリセンは本当にボロボロで真ん中でくっきり折れ曲がっていた。おそらくもう叩いても、しなるだけで音が鳴ることはないのだと思う。

「え？ ハリセン、多分まだ余ってるのありますよ！ あげますよ！」

 その時は咄嗟にそんな言葉しか出なかった。私と一緒に居た、声出しサポ仲間も「新しいのあるから使って下さいよ」と言った。そんな我々を見て、奥様はとても上品に微笑んだ。

「違うのよ。これで応援したあの雨の試合が本当に凄かったから、縁起かついで、御守り代わりに持ってるの」

  ああ、また私はデリカシーの無いことを言ってしまった。あの雨の西が丘の湯郷戦、０‐２のビハインドからラスト10分弱で２点獲って追い付いた、ギリギリでもぎ取った勝ち点１は私にとっても特別で、それは多くのサポーターも同じように思っていると思う。それは頭で分かっていたけれど、あんな……座って観ているだけでも体力をじわじわ奪われるような気候の中、あのスタンドの何処かでこのご夫婦も……あのスフィーダの白熱のラスト10分を見守ってらしたんだなと。その想い出を大事に、大事に、持ち歩いていらっしゃるんだと。そう思ったら、何だか胸の奥が熱くなった。

 そういえば、このご夫婦は……あの幻の開幕戦、直前で中止が決まった信じられないような猛吹雪の三ツ沢にもいらしていた。声を掛けられた時は「え？ 今日いらしてたんですか？」と本当に本当に驚いた。あの雪を思えば、雨の西が丘も、日曜日の炎天下の味西も、どうってことないのかもしれない。

  私はただの一サポーターであって、クラブの関係者でも何でもないし、サポーター歴もまだまだ短い方だと思う。そんな私ですら思うのだ。創立時から、いやもっと前から、スフィーダを見守って、応援して、支えてきてくれた先輩方が沢山いらっしゃって……そして今のスフィーダがある。もし、何処かで何かが少しだけ違っていたら、クラブは途中で解散していたかもしれないし、今もチャレンジリーグに、いや関東リーグに、もしかしたら東京都リーグに居たかもしれない。私たちは、今までスフィーダに携わって来た人たちみんなに感謝しつつ、今、このなでしこリーグ２部でスフィーダを応援出来ていることを全力で楽しまなくてはなと。そしてそんな方々と、サポーターたちと、選手たちと、みんなで１部に行きたいと。

 

 “Number 12,  SFIDA family and friends！”

  いつもホームゲームでユキさんが選手紹介の時に言うこのフレーズの受け取り方が……なんだか少しだけ変わったような気がした。

 

  あのボロボロのハリセンは……今でもきっとあの奥様の鞄の中にあるだろうか。ご自宅の何処かにそっと置いてあるのだろうか。前節は負けてしまったけれど、あの湯郷戦の想い出と一緒にずっと大事にしまっておいて欲しいと思った。

 サポーターの数だけ想い出がある。

 試合の数だけドラマがある。

 それを共有できるのは……

 きっと、とても、幸せなことなんだと思う。

 

  

【オマケ】

▼ハリセンのイメージ写真です(これは我が家のもので、文中の奥様がお持ちだったものはもっとくたびれておりまし�
��)

横断幕を貼って、時間置いて、また剥がして帰って来たっていう、謎の横浜往復になったのですが、この極寒の三ツ沢にもあのご夫婦の姿を見たときは本当に驚きました。

【私信】

  先日は味西の入り口で話し掛けて下さってありがとうございました。素敵なお話を聞かせて頂いて、ハリセンを見せて頂いて、とても嬉しかったです。まだまだ新入りのひよっこサポーターですが、今後ともよろしくお願いいたします。

  勝手にこのお話を書かせて頂いてしまってすいません。クレームは随時受け付けておりますm(_ _)m